アロハ動物医療センターAloha Animal Medical Center
〒444-2144 愛知県岡崎市岩津町於御所181
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犬や猫における先天性門脈体循環シャント(congenital Portosystemic Shunt : 先天性PSS)は肝臓の機能血管である門脈の血流が直接全身循環に流出させる異常血管である。
PSSは先天性と後天性に分類される。先天性PSSは肝臓内の門脈が全身静脈系に合流する肝内PSSと、肝臓外の門脈から全身静脈系に合流する肝外PSSに分けられる。
先天性PSSは、肝臓の機能血管である門脈の血流が肝臓へ流入する量が少なく、肝臓実質や肝臓内門脈への発達・機能に影響が起こりやすい。
そのため肝機能の低下へとつながり肝機能不全を起こす場合もある。臨床症状としては、肝性脳症、発育不良、下部尿路結石、血液凝固障害、慢性の消化器症状が認められる。
診断は血液検査でアンモニアとTBAの数値での異常が認められることが多い。
シャントタイプは多い順に左胃静脈-奇静脈シャント、左胃静脈-横隔膜-後大静脈シャント、右胃静脈・脾静脈-後大静脈シャント、右胃静脈-後大静脈シャント、脾静脈-後大静脈シャントである。
マルチーズやヨークシャテリア、トイプードルなど小型犬に多くみられ、時折、大型犬にもこの疾患がみられる。
先天性PSSは手術が適応になることが多く、手術により完治もしくは改善に向かう傾向にある。
後天性門脈体循環シャントは、肝臓の繊維化や炎症など何らかしらの原因により門脈圧が上昇し異常(シャント)血管が1本以上発生することで発症する。
これは多発性シャントといわれ、腸管からの血流が門脈ではなく大小様々な血管を通り、後大静脈へ流れ込みます。
このようなタイプは基本的に手術が適応ではありません。
門脈体循環シャントを抱えた犬や猫は、栄養状態が悪く、身体が小さかったり、毒素の影響で流涎(涎が流れること)や発作、旋回運動などの様々な神経症状(肝性脳症*)、が引き起こされたりします。
また、尿酸アンモニウム結石ができるので泌尿器疾患の症状でも発見されることがあります。
なかには、症状がほとんどなくシニアになるまで発見されない症例もあります。
※肝性脳症とは、肝不全や門脈体循環シャントなどの肝機能障害によって起きる、流涎や沈鬱、昏迷、発作などの症状のこと。
門脈体循環シャントの発見には主に、健康診断による血液検査で発見されることが多くあります。
またシニアでの発見は、シニアに多い疾病を患わった際の血液検査で発見されることも少なくありません。
血液検査の特徴としては、血中のアンモニア(NH₃)や胆汁酸(=総胆汁酸TBA)の高値を認めることがあります。
犬の胆汁酸の濃度は、通常微量ですが、重度の肝障害や門脈血流が後大静脈に流れると血中の胆汁酸の濃度が異常に高値になります。
胆汁酸(=総胆汁酸TBA)の検査は、肝臓の逸脱酵素や胆管酵素に異常がみられない場合でも、肝機能や門脈循環に異常がある時には必ず上昇するので、門脈体循環シャントやその他の症例において非常に有用な検査の一つです。
超音波(エコー)検査機器の発達により、ほとんどの異常(シャント)血管がエコー検査でも判るようになってきました。
また、高度医療検査機器CT検査及び血管造影検査(CT検査もしくはレントゲン検査)を行うことにより、正確なタイプ診断(多発性なのか)や手術を行う場合の異常(シャント)血管の正確な位置を特定することにより手術時間の短縮につながります。
主に手術となりますが、腸管からの血流が異常(シャント)血管を通り、後大静脈に流れ込まないようにするため、異常(シャント)血管を結紮(縛って固定もしくは塞ぐこと)して血流を止め、血流を本来の(肝)門脈に流れるようにします。
当院では、現在開腹手術をメインで行っております。しかし、消化器疾患専門の金子獣医師の協力を頂き腹腔鏡下での手術にも取り組み始めています。
腹腔鏡下での手術のメリットとしては、従来の開腹下での手術と比べ傷口が小さいことはもちろん拡大視野での小さな血管を確認することができます。また、臓器が乾かないので術後の癒着がほとんどなく、上記の通り傷口が小さいことから術後の痛みが開腹手術より少ないです。そして、開腹手術での術後は、胃腸の運動機能の低下により食欲が戻らず低血糖を起こしやすいですが、腹腔鏡下での手術では、胃腸の運動機能の低下が少ないため、食欲も比較的すぐに戻ります。
門脈体循環シャントの手術後2~3日で結紮後発作症候群という発作が起こることがあります。
犬では5~18%、猫では犬よりも高く8~22%の発生率と報告があります。
原因は未だ解明されていませんが、門脈体循環シャントの犬猫の発作を抑制する体内物質が健常な犬猫よりも血液中に多いことや、手術後の低血糖などが考えられ、術前に発作を抑える薬の投与、術後の血糖値コントロールなど対処がありますが、完全に抑えることができないのが現状です。